令和2年から法務局で遺言書を保管できる「自筆証書遺言書保管制度」が始まりましたが、みなさんはご存じでしょうか?
あまり聞き慣れない制度かもしれませんし、そもそも遺言書について詳しく知らないという方も多いかもしれません。
本記事では、「自筆証書遺言書保管制度」について詳しく解説していきます。
遺言書の種類や作成のポイントについても触れていきますので、終活を検討している方や、遺言書について知りたい方はぜひ参考にしてください。
遺言書の種類
そもそも遺言書とは何なのでしょうか。
「遺言書」とは、自分の財産を誰にどのように残したいか、自分の意思や想いを確実に伝えるための手段です。
遺言書を作成しておけば、被相続人の意思にもとづいた円滑な相続手続きが可能になります。
遺言書には、大きく分けて2つの種類があります。
公正証書遺言
公正証書遺言は、公証役場で証人2人以上の立会いのもと、遺言者が遺言の内容を口頭で伝え、公証人がその内容を確認して作成する遺言書です。
作成された遺言書の原本は、公証役場で厳重に保管されます。
公正証書遺言のメリット
① 公証人が内容を確認・作成するため、遺言内容の信頼性が高く、無効になるリスクが低い。
② 公証役場が原本を管理するため、偽造や紛失の恐れが少ない。
③ 相続発生後の家庭裁判所による検認が不要。
公正証書遺言のデメリット
①公証人と証人に支払う手数料が必要。
②準備に時間がかかる。
自筆証書遺言
遺言者が自分で遺言書を作成する方式です。
2019年の民法改正により、財産目録部分についてはパソコンや代筆でも作成できるようになりました。
自筆証書遺言のメリット
①手軽に作成、書き直しができる。
②費用がかからない。
③第三者に内容が知られずに済む。
自筆証書遺言のデメリット
①作成ミスが発生しやすく、形式に沿っていない場合は、無効となる可能性がある。
②紛失リスクが高い。
③書き換え、盗難などのリスクがある。
④相続発生後、家庭裁判所の検認が必要。
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自筆証書遺言保管制度とは
自筆証書遺言には紛失や盗難、書き換えのリスクがあります。
そのリスクを軽減するために設けられたのが「自筆証書遺言書保管制度」です。
制度の概要を詳しく見ていきましょう。
制度の特徴
この制度は、自筆遺言書とその画像データを法務局が預かってくれる制度です。
2020年7月10日から始まりました。
制度のメリットとデメリットを挙げてみましょう。
自筆証書遺言保管制度のメリット
自筆証書遺言保管制度のメリットを見ていきます。
①無効になりにくい
法務局の窓口で、職員が遺言書の形式チェックを行います。
これにより、書式不備による無効リスクを軽減できます。
②偽造や書き換えを防ぐ
法務局で、遺言書の原本と、その画像データが保管されるため、保管の手間もかからず、紛失や盗難、偽造や改ざんのおそれがありません。
遺言の存在が通知される
通知には、「関係遺言書保管通知」と「遺言者が指定した方への通知」の2種類があります。
「関係遺言書保管通知」は、遺言者死亡後、関係相続人等が、遺言書の閲覧や遺言書情報証明書の交付を受けたとき、その他全ての関係相続人等に対して、遺言書保管官が、遺言書が遺言書保管所に保管されていることをお知らせします。
「遺言者が指定した方への通知」は、戸籍担当部局と連携して遺言書保管官が遺言者の死亡の事実を確認した場合に、あらかじめ遺言者が指定した方(3名まで指定可)に対して、遺言書が保管されている旨をお知らせします。
この通知は、遺言者が希望する場合に限り実施されます。
家庭裁判所の検認が不要
自筆証書遺言書保管制度を利用すれば、検認が不要となり、相続手続きがスムーズに進みます。
自筆証書遺言保管制度のデメリット
自筆証書遺言保管制度はメリットが多いですが、デメリットもあります。
内容についてのアドバイスや確認はない
法務局の窓口では、遺言の形式ルールについてはチェックしてもらえますが、遺言の内容に関するアドバイスや確認はないので注意しましょう。
書式が決まっている
自筆遺言をすべて保管してもらえるわけではありません。
決まった用紙や書式での作成が必要です。
詳しくは法務省ホームページを参照してください。
法務省㏋:「自筆証書遺言保管制度」 03 遺言書の様式等についての注意事項
代理手続きはできない
遺言書の保管の申請ができるのは、遺言者本人のみです。
代理人による申請や郵送による申請はできません。
制度利用の流れ
これまで、制度の内容について確認してきました。
次は利用について、実際の流れを確認していきましょう。
①遺言書作成
条件に合った様式で遺言書を作成します。
作成には細心の注意を払いましょう。
②申請予約
保管してもらう法務局を選び、電話やインターネットで申請予約をします。
遺言書を保管してもらう法務局は、次の3つのいずれかから選びます。
・遺言者の住所地を管轄する遺言書保管所
・遺言者の本籍地を管轄する遺言書保管所
・遺言者が保有する不動産を管轄する遺言書保管所
③申請書準備
申請日までに「申請書」の準備が必要です。
申請書については最寄り法務局の窓口か、法務省ホームページを参照ください。
法務省㏋:「自筆証書遺言書保管制度」06 申請書/届出書/請求書等
④法務局での手続きと費用
当日は、自筆証書遺言や申請書など必要書類を持参します。
必要書類等は以下の通りです。
・自筆証書遺言書
・申請書
・本人確認書類(官公庁から発行された顔写真付きの身分証明書)
・本籍と戸籍の筆頭者の記載のある住民票の写し等
・遺言書が外国語により記載されているときは日本語による翻訳文
・3,900円分の収入印紙(遺言書保管手数料)
⑤保管証の受理
法務局担当者が内容、形式上の問題がないか確認をした後「保管証」が発行されます。
法務局に預けられた遺言書は全て保管番号で管理をされるため、変更等の届出や遺言書情報証明書を相続人が請求する場合、保管証があった方が便利です。
遺言書の内容確認方法
遺言者は遺言の内容を閲覧して確認することができますが、相続人は遺言者が死亡するまで、遺言の内容を閲覧することはできません。
遺言者が死亡したあとは、最寄りの法務局で閲覧を請求することができます。
保管後の注意点
遺言者や遺言執行者に変更があった場合は、変更届を忘れずに行いましょう。
氏名、出生年月日、住所、本籍、戸籍の筆頭者、電話番号のいずれかに変更があった場合には、法務局に届け出が必要です。
死亡時に通知する方の住所が変わってしまえば、当然のことながら、死亡したとしても法務局から通知が届かなくなるので注意しましょう。
こんな人におすすめ
こんな方には、ぜひ自筆証書遺言書保管制度の活用をおすすめします。
・自分自身で考えてやってみたい方
・公正証書遺言の作成をためらっている方
・コストを抑えたい方
まずは遺言書を書いてみよう
自筆証書遺言は手軽に作成でき、保管制度を利用すれば安全性も確保できます。
遺言書を残しておけば、自分の意思を明確に伝えられ、家族の間でのトラブル防止にもつながります。
まずは、ご自身の思いや財産の分け方について、ざっくりとでも書き出してみましょう。
もし複雑な事情や不安がある場合は、司法書士や弁護士などの専門家に相談することで、より安心して遺言書を作成できます。
将来の安心のために、一歩踏み出してはいかがでしょうか。
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