人は誰しも、いつか最期のときを迎えます。
そんな旅立ちのときに身にまとう衣服──それが「死装束」です。
「亡くなったら白装束を着るもの」「昔から決まっている」と思っている方も多いかもしれません。
しかし近年では、形式にとらわれず、自分らしい服装で旅立ちたいと考える人が増えています。
好きな服で旅立ってもいいのでしょうか?
本記事では、死装束の意味や宗教的な違い、近年の傾向や注意点などを踏まえつつ、「死装束は好きなものを着てもいいのか」について考えてみたいと思います。
死装束とは
死装束とは、亡くなった人があの世へ旅立つ際に身にまとう衣服のことです。
古くからの風習では、白い着物に脚絆、手甲、脚絆、足袋、わらじといった“旅支度”をさせるのが一般的でした。
これは、あの世への長い旅に出るための正装であると同時に、「清らかな心で旅立てるように」との願いも込められています。
装具として、杖や六文銭(冥途の渡し賃)、頭陀袋(ずだぶくろ)などが添えられることもあります。
「六文銭」は三途の川を渡る際の船賃として添えられるもので、あの世への無事な旅を祈る意味があります。
また、「頭陀袋」は仏教で修行者が持つ袋で、必要最低限のものだけを携えるという意味を持ちます。
こうした装束や小物には、故人を思う家族の気持ちや、死後の世界への願いが込められているのです。
これらは主に仏教の教えに基づくものですが、地域や宗派によって若干の違いがある場合もあります。
とはいえ、これらは必ずしも法律で定められたものではなく、形式のひとつに過ぎません。
宗派などによる装束の違い
死装束は宗教や宗派によって異なる場合があります。
仏教の場合
仏教では、前述の通り白装束を基本とします。
白は「穢れを払う清浄な色」とされ、旅立ちの正装とされています。
特に浄土宗系では、極楽浄土へ旅立つための服とされ、丁寧に身支度が整えられます。
神道の場合
神道では、死を「穢れ」として捉える一方で、葬儀は「帰幽祭(きゆうさい)」として行われます。
神道の死装束は、白い和服(白小袖)に袴、帯などで整える場合が多く、仏教とはまた違ったスタイルになります。
数珠の代わりに玉串(たまぐし)を用いることもあります。
キリスト教の場合
キリスト教では死装束という概念は明確には存在しないことが多く、生前に好んでいた服や、礼服などで納棺されるケースがほとんどです。
特にカトリックでは、白い衣装を着せることもありますが、プロテスタントではシンプルな装いを尊重する傾向があります。
着せるタイミング
死装束を着せるタイミングは、一般的には「納棺」の前とされています。
亡くなられた方を棺に納める前に、専門スタッフや家族の手で、丁寧に衣服を着せ替えるのです。
多くの場合、この衣装替えは「湯灌(ゆかん)」の儀式のあとに行われます。
湯灌とは、故人の身体を清めるための儀式で、かつては湯船に入れて体を洗うのが主流でしたが、現在では専用の機材や清拭用のタオルなどを使い、自宅や施設、葬儀場で行われることが多くなっています。
病院で亡くなった場合は、搬送前に簡易的な処置が施されることもありますが、本格的な湯灌や着せ替えは自宅や葬儀会場に到着してから行われるケースがほとんどです。
死装束で好きな服を用意しておく際は、「どこで、いつ、誰が着せるのか」も含めて事前に確認・相談しておくことが大切です。
特に高齢の方や病気療養中の方が施設で最期を迎えることが多い現代では、家族がすぐに駆けつけられない場合もあります。
そのため、希望する衣装を専用の袋に入れて施設に預けておく、ご家族に連絡が入ったらすぐに取りに来てもらうなど、細かな段取りも必要になるでしょう。
好きな服を選んでもいい?
結論から言えば、「好きな服を選んでもいい」のです。
現代の日本では、死装束=白装束というイメージは強いものの、必ずしも従う必要はありません。最近では、故人の趣味や人柄を反映させた服装が選ばれることが増えてきました。
たとえば、長年勤め上げた会社のスーツ姿、思い出の詰まったお気に入りのドレス、大好きだった着物など、「その人らしさ」を大切にする風潮が広がってきています。
もちろん、宗教的な儀式や親族の意向も大切です。
しかし、一番重要なのはどのように旅立ちたいかという故人の想いなのではないでしょうか。
エンディングドレス
近年注目されているのが「エンディングドレス」です。
これは、葬儀のために用意される特別な衣装で、故人の趣味や好み、個性を反映したものが選ばれます。
エンディングドレスは既製品も多く、専門メーカーや葬儀社で選べるほか、オーダーメイドする人もいます。
ウェディングドレスのような華やかなものや、やわらかな素材で作られたパジャマ風の服など、バリエーションも豊かです。
女性だけでなく、男性用のエンディングスーツも登場しており、「かっこよく旅立ちたい」という希望に応えるスタイルが増えています。
選ぶ時のポイント
死装束やエンディングドレスを選ぶ際には、いくつかの注意点があります。
着用のしやすさ
故人が大柄だったり、硬直が進んでいたりすると着替えが難しくなることもあるため、着せやすさを考慮した服を選びましょう。
前開きのデザインや柔らかい素材、伸縮性のある素材の服などを選んでおくと、無理なく着せることができます。
金属は避ける
ファスナー、金ボタン、ブローチなどは、火葬時に高温で変形したり、炉の故障の原因になったりすることがありますので避けた方が安心です。
革製品もNG
革靴や本革のベルト、バッグなどを一緒に納めると、完全に燃え切らずに遺骨に混ざってしまうこともあるため、避けたほうがよいでしょう。
プラスチック製品も控える
同様に、プラスチック製の装飾やボタンなども燃え残る恐れがあります。
事前に準備する場合の注意点
「自分の死装束は自分で決めたい」と考える人も増えています。
そんなときは、以下の点に気をつけましょう。
家族と相談する
自分の希望を家族に伝えておくことが大切です。
自分にとっては特別な服でも、家族が知らなければ用意することができません。
エンディングノートに記載するのもよい方法です。
病院や施設に相談する
入院中や施設入所中に亡くなった場合、すぐに着替えさせることが難しい場合があります。
どのタイミングで、どこに保管しておくべきか、事前に確認しておきましょう。
葬儀会社に伝える
希望に合った納棺が可能かどうか、葬儀会社に早めに相談しておくことでスムーズに対応することができます。
自分らしく旅立つために
死装束というと、どうしても「決まりきったもの」「昔ながらの儀式」と捉えがちですが、実際にはもっと自由で、自分らしさを表現できる選択肢のひとつです。
形式にこだわるのも大切ですが、故人の生き方や思いを反映させた装いには、それ以上の意味が込められることもあります。
「好きな服で、あの世へ」そんな選択も、今では可能な時代なのです。
好きな死装束を準備しておき、自分らしいエンディングをご自身で演出するのもいいですね。
コメント